詳細については、OTデータ革命シリーズを随時ご参照ください。
COVID-19の感染拡大が続く中で、産業セクターのリーダー達は、近年で最も影響の大きい変化である、産業デジタルトランスフォーメーション(産業DX)に移行しつつあります。ただし、時流に乗る前に、産業DXが必然的に何を引き起こすのかを理解することが重要です。そのためには、産業DXの構成要素である運用データ(OTデータ)から着手しましょう。
有害廃棄物を有機肥料に変換する工場を想像してください。生産プロセス中にわずかでも温度変化が生じると、活性剤の中和反応に影響を及ぼし、結果として生産能力が損なわれます。従来は、現場のスタッフが悪影響の調査とそれに続く調整を行う必要がありました。しかし、かなり以前から、この方法では急な変化に対応するには非効率であることが明らかでした。最適な中和プロセスを維持するために必要な調整を図るには、実際に温度が変動する6時間前に温度変化を正確に予測することが極めて重要です。また正確な予測には、機器運用データ、コントローラデータ、現地の温度データ、気象予測データを含む数種類のデータが必要です。このようなタイプの運用データ(OTデータ)は、産業DXの基本的な構成要素となります。
効果的なビジネスインテリジェンスを作成するには、OTデータを収集するだけでなく、それらを分析して関連する戦略を策定する必要があります。したがって、産業DXは、既存のOTデータの価値を見出し、解釈するプロセスとみなすことができます。それは口で言うほど簡単なタスクではありません。Moxaでは、OTデータの接続における30年以上の実績から、OTデータの「価値」が高まる(データからより多くの気づきを期待する)ほど、接続の難易度が上がると考えています。その結果、データを安全に収集、処理、ラベル付けしてから、タイムリーに伝送するという、OTデータコネクティビティ技術の本来の責任は、今ではより明確な複数のステップに分割されています。受信データの流入に対応するために、伝送の方法と速度において大きな進歩が遂げられてきました。OTデータコネクティビティは、現在、当該分野の知識と最新の技術力を統合するハイブリッドな専門分野となっています。「OTデータコネクティビティ」におけるこれらの進歩は、産業DXを成功させる上で主要な要素であり続けます。注目すべきいくつかの変化を以下で取り上げます。
単なる現状の監視を脱し、将来の最適化を推進
従来、OTデータを収集する目的は、単に、既存の運用システムを監視および制御することにありました。OTデータは、現場デバイスの現在の状態を追跡することで、マシンの安定した稼働を確実にするために使用されます。また、生産目標に従い、流量を制御するために使用することもできます。つまり、「現状」を維持することにのみ重点が置かれています。しかし、産業DXでは、将来に向けてさらに一歩進めています。OTデータを取得する目的は、単なる現状の監視と制御に留まらず、今では、将来を分析するためのデータ統合が主な目的となっています。運用効率に影響する主な要因を見出し、最適化し、新たなビジネスチャンスを創出することで、産業界の多くの先駆者は、OTデータによってまったく新しいビジネスモデルを作り上げることができました。一例として、先進の電力システムインテグレーターを取り上げます。この会社は、水素エネルギーバッテリのメタノールの使用履歴から収集されたデータを応用して、顧客ごとの将来のエネルギー使用量を見積りました。その後、顧客ごとにパーソナライズされた新しい課金プランが作成されました。以前の従量制プランは、「Machine-as -a-Service(サービスとしてのマシン)」月額課金プランにアップグレードされ、双方にとってウィンウィンのビジネスモデルが創出されました。
1桁の数字から実際の値への移行
OTデータがさらなる分析に使用されると、ITとOTの境界線は大幅に曖昧になります。従来は、信頼性の高いデータ伝送を保証することが唯一の要件でした。今日では、データの品質も保証する必要があります。これが、産業DXにおける最大の障害の1つとなってきました。産業用機器のライフサイクルは、通常非常に長いため、不完全または認識できない形式の大量のOTデータが蓄積されることになります。その後、データを使用可能な状態にするために、ITの専門家が事前に追加のデータスクリーニングや変換をする必要があります。ここでの最良のシナリオは、データスクラブに少し長めに時間をかけることです。費用と貴重な時間が費やされますが、データは使用可能な状態になります。一方、最悪なシナリオは、データを理解できず、すべてが無駄になってしまう場合です。たとえば、出力データに何もラベル付けされずに「5」と表示されている場合、この数字が何を表すかを解読することは不可能です。さらに調査しなければ、その数字が実際にはマシンの速度を示していることは決してわかりません。このような間違った情報の伝達はしばしば、ITシステムが認識できない異なる形式によって引き起こされます。こうした現象はよく見られるもので、これに対するソリューションの1つは、OTデータコネクティビティデバイスの内蔵プログラムを介して、該当するデータを前処理して必要な形式に変換することです。つまり、データの前処理によって、データにコンテキストを与え、データを認識可能にします。OTデータを使用可能なOTデータに変換するプロセスによって、「分析的なユーザビリティ」が付加されます。したがって、このプロセスは、OTデータ革命の開始時における重要なステップとなります。
複雑で多様なニーズ - 多様なデータのソースとタイプ
従来の制御システムは、すでに多くのOTデータに依存して日々の運用を維持しています。水タンクゲートの位置、1日当たりの石油生産などの単純なデータは、運用状態に関する基本情報を示します。生産手順やプロセスなどの複雑なデータも生成されます。しかし、産業DXにはさらに多くのものが必要です。一例として再生可能エネルギー業界を取り上げます。ソーラーパネルの影や汚れをすばやく除去するには、より多くのデータが必要です。発電状態の監視に加え、温度や湿度などの環境情報も必要となります。これらのデータは、監視ドローンからのライブ画像やAIプラットフォームによる分析と組み合わされ、汚れたソーラーパネルのより正確な位置を見つけ出すことができます。この情報を活用して、リアルタイムで正確な保守がスケジュールできます。したがって、多様なソースからの大量のOTデータによって、従来の設備コストは削減され、生産効率は大幅に改善されます。
線形制御からリアルタイムの循環フィードバックへの変更
従来のオートメーションシステムは、リアルタイム制御を特に重要視しています。OTデータは、通常、線形制御プロセスにおける特定タイムスロットの指標として使用されます。データの目的は、特定のプロセスが完了すると終了します。しかし、産業DXは、「OTデータの収集/分析/フィードバック」ループに着目することで、別のタイプのリアルタイムを重要視しています。現在ITでは、新たなビッグデータ処理技術、より高速なネットワーク、成熟した産業用コンピューティング機能を活用して、連続したOTデータを分析し、データ分析後、即座に運用機器にフィードバックできます。データを受信、分析、フィードバックするこのループによって、企業はリアルタイムで生産プロセスを調整できます。一例として、KPMGの顧客である中小規模のメーカーを取り上げます。欠陥製品によって引き起こされる無駄な人的工数や材料資源を削減するために、振動、温度、速度、電流などのより多くのOTデータが、AIプラットフォームによって収集、アップロード、分析されます。分析を通じて、特定マシンのツールの電流変動周期が過剰に高くなった時には、そのツールが摩耗していることを知ることができました。そして、そのツールを事前に交換して、高品質な生産を確保できます。
減るどころか、増加の一途をたどる
インダストリー4.0時代において、大規模オートメーションシステム(石油精製所の分散制御システムなど)は、秒当たりで大量のOTデータを処理できます。ただし、このデータは機器が稼働している間のみ使用されます。稼働が終了すると、データの解釈も終了します。そのため、OTデータは現状を解釈するためにのみ使用されます。しかし、産業DXでは、さらに一歩先を行きます。より大量のデータを使用して、シミュレーションと分析を実行し、リアルタイムの運用効率をすばやく改善し、運用上のリスクをコントロールできます。たとえば、パンデミックの最中に過剰に混雑した客車を避けるために、台湾の鉄道会社は列車に圧力センサーを装備し、客車にかかる荷重を測定しています。列車が駅に入る前に、センサーは、各客車のオンボードCCTVからのデータとともに情報をコントロールセンターに送信します。こうして、コントロールセンターは各客車の混雑具合を正確に把握し、この情報を駅のホームで待っている乗客に提供したり、混雑を緩和できるように管理部門に通知したりすることができます。
データセキュリティにおいて企業の安全と国家の安全は同等
OTデータについて語る場合、通常サイバープライバシーは主要な懸念事項ではありませんが、産業DXにおいては重要な優先事項となります。OTデータの大半は、重要なインフラ(水処理プラントや発電所の機器監視など)から収集されたデータや、主要な製造施設(石油精製所、半導体工場など)の重要な運用情報で構成されます。このような情報が、悪意を持って変更された場合、計り知れない大規模な損失が引き起こされる可能性があります。2021年2月に、ハッカーは旧版Windowsオペレーティングシステムと脆弱なネットワークセキュリティを悪用して、米国の公営水処理プラントのSCADAシステムへの侵入に成功しました。彼らは、水中の水酸化ナトリウム含有量を、人体に有害な範囲まで高めることを企んでいました。幸いにも、現場のオペレータが即座に異常な状態に気づき、脅威の遂行は阻止されました。サイバー攻撃の脅威が高まるにつれ、より多くの業界がこのような攻撃の被害に遭い、非常に深刻な結果を招く可能性があるため、サイバーセキュリティを優先させる必要があります。
産業DXによって、以前は不可解で意に介されていなかったOTデータに注目が集まっています。こうした産業DXは、知識、運用、セキュリティ、さらには個人のメンタリティにおけるIT/OTの統合を直接促進しています。