エネルギーが世界的に進化する中、BESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)などの貯蔵技術が電力供給に対する認識を変えつつあります。多くの人が、BESSの初期建設費(CapEX)の高さに注目する一方で、その運用コスト(OpEX)を見落としがちですがOpEXは非常に重要です。より大規模なBESS施設の建設への投資というトレンドが続くなか、BESSの運用に伴う数十年にわたる長期的な運用コストを軽視することはできません。
1. 遠隔地:導入、アクセス、メンテナンスの難しさ
大規模なエネルギー貯蔵施設は、多くの場合、戦略的に(風力や太陽光などの)再生可能エネルギー施設や大規模な送電ハブの近辺に配置されます。これらの施設は遠隔地に建設されることが多いため、アクセスが困難です。そのため、重大な故障が発生した場合、メンテナンスチームの出張コストと時間が大幅に増加する可能性があります。場合によっては、現地に到着するまでの移動時間が、実際の修理時間を超えてしまいます。そのため、多くの専門家は、建設の初期段階で統合監視や安全性の高いリモート接続ネットワークの検討を推奨しています。これにより、社内および機器メーカー従業員の修理時間とメンテナンスコストを削減することができます。
2. 異常気象:小さな問題が大きな損失につながる
バッテリーパックは、エネルギー貯蔵システム全体の中で最も高価なコンポーネントなので、過熱を防ぐために厳重に温度管理された環境で運用されます。しかし、すべての重要機器が同様の環境で運用されているわけではありません。例えば、バッテリーデータの収集・送信を担う重要な通信デバイス、消火システム、EMSを実行するコンピュータは、一般的に空調のない環境で運用されます。気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)のデータは、今日の異常気象の頻度が、過去10年間の平均を上回っていることを伝えています。例えば、熱波の発生頻度は過去10年間と比較して2.8倍以上に増加しており[1]、電子製品の長期的な信頼性を脅かしています。専門家は、極端な温度に耐え、ファンなしで動作し、デュアル電源入力や防水機能を備えた産業グレードの通信/コンピュータコンポーネントを推奨しています。これにより、より信頼性に優れた施設運用を実現しつつ、将来のメンテナンスコストを大幅に削減することができます。
3. ソフトウェアの脆弱性の変化:BESSの新たなメンテナンス要件
人間による運用よりも、コンピュータによる運用や産業用コントローラーへの依存が高まる今日において、ソフトウェアの脆弱性がO&M(運用とメンテナンス)の新たな課題となっています。BESSシステム内の多数の産業用コンピュータ、コントローラー、通信デバイス、スマートセンサーは、組み込みのオペレーティングシステムやアプリケーション上で動作します。技術の進化に伴い、新たな脆弱性や攻撃手段が現れています。例えば、Linuxは産業機器で一般的に使用されるOSですが、各Linuxディストリビューションのメンテナンスサイクルはわずか3~5年です。メンテナンス期間の終了後に、プラットフォームが新しいディストリビューションに更新されなければ、ソフトウェアの脆弱性が修正されない可能性があるため、最悪の場合、プログラムの書き換えが必要となり、運用コストが増加します。一般的に、エネルギー貯蔵プロジェクトの運用期間は10年以上であるため、BESSのメンテナンス計画にサイバーセキュリティ対策に向けた更新を組み込むことは非常に重要です。これにより、システムを潜在的なオンライン脅威から保護しつつ、BESSを継続的かつ安全に運用することができます。BESSは、現在のエネルギー業界で極めて重要な役割を担っており、その効率性と寿命を確保するには、長期的な運用コストを優先する必要があります。
建設現場の選定、高品質な電気機械設備の確保、サイバーセキュリティに対応するソフトウェア更新など、あらゆる判断が将来の運用コストに影響を与えます。リモートメンテナンスが可能なシステム設計、産業グレードのコンポーネント採用、継続的なソフトウェアセキュリティ更新などのプロアクティブな計画と投資により、BESSを中断なく運用しつつ、長期的なメンテナンスコストを効果的に削減し、将来のエネルギー転換のより強固な基盤を築くことができます。
詳細は、Moxaのバッテリーエネルギー貯蔵システムのポータルサイトをご覧ください。
[1] The Accelerating Frequency of Extreme Weather Events(異常気象の発生頻度の加速的増加)、visualcapitalist.com、2022年